#0009 一つだけのさくらんぼ  坂崎千春『片想いさん』

今日は多少“夢見る乙女”タッチだ。許せ。



<新装版>片想いさん



この、一つだけのさくらんぼが揺れている絵柄に、惹かれた。
さくらんぼといえば、二つで一つ、ワンペア、と相場が決まってる。
しかも、この少しだけ透けるような薄手の紙の表紙をめくると、
その後ろには、"ワンペア”になったさくらんぼが
たくさん並んだ表紙があらわれる。
たしか大塚愛の「さくらんぼ」だって
“隣どおし あなたとあたし さくらんぼ”なんて歌詞が
あった気がする。


でも、この本の表紙は、一つだけのさくらんぼ。
しかも、そのさくらんぼに描かれた顔は、
悲しげではなく、ちょっととぼけた味すら感じさせる。
その表情に、グッと来た。


そんなきっかけで購入したこの本。
坂崎千春さんの文章とイラストから成っている。*1
短編集で、新装版らしい。
オリジナルは、2002年に同じ版元のWAVE出版から出た『片想いさん−恋と本とごはんのABC』だ。

片想いさん―恋と本とごはんのABC


このサブタイトルから分かるように、
各短編のタイトルがアルファベット26文字に
当てはめられている。
Aがアップルティー、Bがバウルー*2、CがCat、DがDog、EがEgg…、
という具合だ。


そして、そのそれぞれに、本や料理のレシピが関わっている。


どのエピソードも、切ないんですわ、これが。


「D=Dog」篇では、大学のクラスメート、K君が登場する。
K君にくっついていると、楽しいことにたくさん出逢える(気持ちになる)“わたし”。
なにしろ、K君に言葉をかけてもらうだけで嬉しくなっちゃうわけだ。
そりゃ、一緒にいれば楽しいことにもたくさん出逢えるだろう。



そんなとき“わたし”が出会った映画が、
ミラン・クンデラ原作の『存在の耐えられない軽さ』。
存在の耐えられない軽さ スペシャル・エディション [DVD]
その中のセリフ、
「わたしはあなたよりも、この犬を愛している。
私は犬には、嫉妬もしないし、要求もしない。
ただ犬のありのままを愛することができるから」。


このセリフ、主人公である夫に対して妻が言うのだが。
そのセリフに登場する、愛犬にあこがれたのだろうか。
愛犬のように、その存在ありのままを愛してもらえるという在り方。


でも、“わたし”はすぐに自分を振り返る。

私の「好き」はもっと幼くて、Kくんにむかって、犬のように
しっぽをぱたぱた振ることのような気がする。〜中略〜
気づいてくれなくてもいい、頭をなでてくれなくてもいい。ぱたぱたぱた。
ぶきっちょな犬の恋。

で、その文の後ろに、しっぽを小さく振る犬のイラスト。


…でも、これってその時のことを振り返って書いているから、
「気づいてくれなくてもいい」って思えるんだろうなぁ。
猫と違って、犬は(多分、)主人公が気付いてくれて、頭をなでてくれるのを
待っていることしかできないから。
それって、やっぱりツラい、と思うわけです。



と、そんな感じで一篇ごとにシミジミしてしまう私。
まだ、「E」の章までしか読めずに、
もったいなくて、チビチビ読み進むつもりでいたりして。

*1:坂崎さんはイラストレーター&絵本作家。太めのペンで書いたような、太細のタッチが感じられるイラストがまたイイ感じ。JRのスイカのキャラクター、ペンギンも彼女の手によるもの。

*2:ホットサンドを作る器具、ね。姿はこんなのです。キャプテンスタッグ(CAPTAIN STAG) グランピング キッチン用品 ホットサンドトースターM-8617