#0007 今夜、学んだ七つのこと。/『俺はその夜多くのことを学んだ』三谷幸喜+唐仁原教久

いつも通りかかる駅のコンコース。
ちょっと時間があったので、そこに店開きしていた
古書のワゴンセールを覗く。


そこで買ったのが、「俺はその夜多くのことを学んだ」(三谷幸喜 文/唐仁原教久 絵)、
「R.P.G.」(宮部みゆき)、そして「フェイク・ビジネス」(ゼップ・シェラー)。
俺はその夜多くのことを学んだ (幻冬舎文庫) R.P.G. (集英社文庫) フェイクビジネス―贋作者・商人・専門家 (小学館文庫)



その中の一冊、「俺はその夜多くのことを学んだ」が
かなりイイ、です。

これ、唐仁原教久のイラストが全ページ、全面に
フィーチャーされていて、
そこに三谷幸喜によるひとつの物語が、
一ページにつき2〜3行、せいぜい5行くらいで
書き綴られている、というもの。


いちおうネタバレの範疇に入ってしまうと思いますが、
ストーリー展開自体が大事、というものでもないと思うので
書いちゃいます。
ストーリーを知っていても、本はしっかり楽しめるはず。
まっさらな状態で読みたい、という方は
ここでストップ、ということで。

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このストーリー、
職場で入社式の時に一目惚れした女性と、
入社後三年経ってから初めて
映画+お食事のデートをした、というところから始まります。


家に帰り、その日のデートを振り返る主人公。
デートにこぎ着けるまで三年かかった、とか、
彼女にとってはこんなデートなんて、男友達との日常のことだろうなぁ、とか。
二人で交わした会話を思い出し、余韻に浸る。


と、急に彼女にデンワしたくなる主人公。
「今日は楽しかったな」と一言、どうしても言いたい。


しかし、デートを終えて帰宅し、今は午後十時。
デートの好印象を、蛇足の電話で台無しにしたくない。
電話するか、しないか、するか、しないか、するか…。


で、結局電話してしまう主人公。


そして、学んだこと。
「掛けようかどうしようか迷った電話は、掛けてもろくな事がない」。


そう、残念ながら電話は留守電、しかも
留守電のメッセージ、という意外な結末に
しどろもどろで「帰宅されたら電話もらえますか?」というメッセージを
残してしまった主人公…。


しばらくたって、もう一度我慢しきれずに
電話を掛けたら、今度は「話し中」。
時刻は、十二時。


…だれと話してるんだ?こんな真夜中に。


…そして主人公は、「…ということは…」という思いに駆られて
次々と行動を起こしてしまい、
次々と恋愛の「真理」を学ぶことに。


切ない。その主人公の行動のばかばかしさを笑いつつも
どこか共感してしまい、「そうだよな、そうだよな〜。
そこはやっぱり、そうしちゃうよな…」と
相づちを打ってしまう。


…しかたないんですな、
人生ってそんなことの積み重ねなのかもしれません。


この本の最後のフレーズ、主人公が七つめに学んだことが
すべてを代弁してくれます。


「恋愛に関して、新たに悟ったことは、既にもう、前に一度悟っている」。



はい、その通りですな…。
嗚呼、学ばない僕ら。