#0006 フェルナンド・ペレス『永遠のハバナ』

『永遠のハバナ』チラシです


前にチラシで気になっていた映画を
見てきました。


フェルナンド・ペレス監督による
『永遠のハバナ』です。
(原題:Suite Habana=ハバナ組曲/2003年)


これ、ほとんど予備知識のないまま
劇場に足を運んだのですが、
冒頭、コラージュ的な日常のシーンの中で
十数人の登場人物が次々に顔を見せ、
覚える余地もなく
「これでストーリー追えるんかいな…」と不安に。
でも、見続けていると、また別の不安が。
大きなストーリーが、ないんです。
子供と祖母の朝の風景に気持ちが入り込んでいくと、
急に別の男性の出勤風景に切り替わり、
かと思うと、工場で作業する女性の手元が映し出されて。
…これで84分も見続けられるんだろうか、と
思ったのですが。


いやはやスゴイですよ、この映画は。
小さなシーンの積み重ねで、
ハバナのある日の早朝から翌日早朝までを
シーンのコラージュで続けて見せるのですが、
そこからは、リアルな日常の物語が伝わってくるんです。


謎の小さな紙筒を持って街頭に立ち、
子供相手にその紙筒を売っているらしきおばさん。
ハイヒールを自転車のハンドルに引っかけて、
朝の街を走る青年。
無線機の修理?に没頭しているおじいさん、
テレビを見続けるおばあさん。


本当に、なんでもなさそうな
ハバナの日常。
でも、そのシーンの流れを見続けていると、
一つ一つ、単なるコラージュの
いちシーンにしか見えなかった場面が、
少しずつ意味を持って繋がり始めるんです。
それも、決してドラマチックではなく、淡々と。


「revolucion」と書かれたネオンサイン。
道路工事のショベルカー、
線路の保守に向かう作業員を乗せたトロッコ
古びた建物の屋内に、ひっそりと貼られた
ゲバラポートレート
海沿いの、高波をかぶり続けるマレコン通りと
その波しぶきの中、走り抜ける
乗り合い自転車や車の数々。
(この道、『ブエナビスタ・ソシアル・クラブ』でも
登場していて、印象的でした。)


この監督、フェルナンド・ペレスは
キューバの生まれとのこと。
自分の育った地を、これほどまでに
淡々と、しかも印象的に描けるということに
驚くしかない、という感じです。


妻に先立たれ、ダウン症の息子を
男手で育て上げるために
建築家をやめた夫。
バレエダンサーを夢見ながら、
昼間は家の修理をする若者。
恋人を追って、母国を離れアメリカへ向かう青年。
昼間は鉄道修理を仕事にしながら、
夜はクラブでクラリネットを吹く男性。
どの人生にも、日々、ドラマが
静かに流れている。
それらの人生の重なりが織りなす、
「ハバナ」という名の組曲


映画の冒頭シーン。
早朝、ジョン・レノン公園にある
ベンチに座ったレノンの銅像の前。
向かい合うようにベンチにすわり、コートを着た人の姿がある。
と、近づいてくるコート姿の女性。
ポットからコーヒーか何かを出し、ベンチに座っている男性に
勧めると、彼はその暖かそうな飲み物を飲み干し、
ベンチの座を女性に譲り、その場を立ち去る。
遠景には、少しずつ明けはじめた空を背景に、
灯台のあかりが回っている。


そして、そのジョン・レノン公園の銅像の前で、
ベンチに座った人が再び交代する場面*1
この映画の一日は終わります。


そこに登場する誰もがいち登場人物で、
そして誰もが主人公。


あたりまえのことなんですが、
だれもが自分の人生の主人公なんだ、
だれもが自分の人生という物語を生きているんだ、
ということに改めて気付かされます。


そして、劇中で流れる音楽がまた魅力的。
ついサントラ(asin:B0007MCKCM)を買ってしまいました。
効果音入りのインストが大部分ですが、
サントラに収録されている(トラック18)
教会で聖歌隊が合唱している曲(曲名不明)も
心に響きます。
このサントラには未収録の曲
「マリポーサ」(Silvio Rodriguez)や、
エンディング近くで流れる「キエレメ・ムーチョ」
オマーラ・ポルトゥオンド)なども
印象に残りました。


Mariposas
Silvio Rodriguez「Mariposas」
シルビオ・ロドリーゲスはキューバ独立の歌を歌うムーブメント「Trova」の
流れを引き継ぐ新世代の旗手で、「Nueva Trova」の歌い手らしいです。


(cf: Portuondo「Quiereme Mucho」は、下記サイトに試聴があります)
http://www.cubanmusic.com/Bands/Omara_Portuondo_18_Joyas_Ineditas.htm
(Cubanmusic.com>Artists:Omara Portuondo>"18 Joyas Ineditas")

*1:自由を求めたレノンに共感したのでしょうか、カストロが出席して2000年の12月8日(レノンの命日)に
除幕式をしたそうです。
そのメガネがたびたび盗まれる、というので市民により24時間見守られているとか。