#0002 『キャラバン』(1999年)

久々に仕事が早く終わったので、
家でDVDを見ました。
ヒマラヤ山中で、ヤクの群れを率いてキャラバンを行う
人々を描いた映画です。

キャラバン [DVD]
『Caravan(Himalaya - l'enfance d'un chef)』(1999年)
監督:エリック・ヴァリ/Eric Valli



映画は、ヤクの群れが土埃を立てながら移動する
キャラバンの光景で幕を開けます。
舞台は、山間のわずかな平地に広がる段々畑に囲まれた、
ドルポの村。
しかしその畑の麦では村の人々が3ヶ月しか食べられない。
この村にとって、近くで取れるらしい岩塩と
食料となる麦とを交換するために行う
行商隊−キャラバンは、生命線なんですね。

しかし、ある日、
長老ティンレの息子で、この村のリーダー的存在だった
ラクパが、キャラバンの途中の事故死。
食料のためには、どうにかして
キャラバンに出なければならない。
しかし、誰がそのキャラバンを率いるのか−。


ラクパに次ぐサブリーダー的存在だったカルマ、そして
息子をカルマのせいで亡くしたと思っている
長老ティンレ。
それぞれが、それぞれのこだわりのために
別々に隊を組織し、キャラバンに出る…。


この映画は、オール現地ロケで、
キャストは、ほぼ全員現地の普通の人々。
撮影した地域自体は
ネパール国内のヒマラヤ山中のようですが、
登場人物の顔立ちも、また
文化的な面でもかなりチベット色が濃い地域に見えます。
言葉も、なんだかチベット語を話しているようですが、
どうなんでしょう。


長老は、次期長老候補として
まだ小さい孫のパサンや、その母・ペマ、
死んだラクパの弟で、僧院で仏画の修行に励んでいたノルブを連れ、
年老いた往年の仲間達を中心に結成した顔ぶれで
キャラバンに出ます。


その道程では、時に崖っぷちの細道がくずれて
ヤク一頭と塩二袋を失い、
また、数歩先も見えないような吹雪に遭い…。


物語の骨組み自体は、
いわゆる「世代交代」です。
でも、それよりも
厳しい自然環境の中で暮らす
ドルポの人々のたくましさ、
そして何か信じるものを個々が自分の中に持っている、
そんな彼らの力強さが強く印象に残りました。
なにかそれだけ確とした「思い」が
自分の中にはあるだろうか…、と
つい考えずにはいられません。


そしてもう一つ、この映画の中で印象に残ったのが、
額と額をコツンと合わせるジェスチャー
雪の中、ヤクの背で疲れのあまり眠りに落ちかけている
子供を、長老が無言のまま励ます場面。
雪中のテントの中で、体は弱りながらも
カルマに対する怒りを消すことの出来ない長老に、
ノルブがコツン、とやさしく頭を合わせる場面。
額を合わせる、ただそれだけなのに、
様々な気持ちが、見る側にも伝わってくる気がします。
「大丈夫だよ」「がんばれ」
「疲れたよね、休んでいいよ」「ゆったり、ゆったり」…。
そのどれにもあてはまらない、またどれでもあるような仕草。
時に言葉より豊かな、「仕草」の深さを感じました。


ラストシーンで、
山の斜面に一本だけ立つ樹木の下で、
梢を見上げる少年。
逆光でシルエットになって誰かは判りませんが、
梢の先の青い空に、彼は何を思っていたのかなぁ…、と。


*この映画の監督、エリック・ヴァリは
ナショナル・ジオグラフィックなどとも
仕事をしているスチールのカメラマン出身。
これが初監督作品のようですが、
セブン・イヤーズ・イン・チベット』で
ユニット・ディレクターも務めていたとのこと。
そして、ヒマラヤ周辺を取り上げた写真集も何冊か出しているようです。
「Dolpo : Hidden land of Nepal」ISBN:0893812587
この舞台となったドルポに関しては、日本人カメラマンによる
写真集も発行されていました。
「ドルポ -ネパールヒマラヤ最奥の聖地」ISBN:4883044394
大谷映芳 他