この地上を照らす夜空

瀬戸内海に浮かぶ島、「直島」に行ってきました。
直島を訪れるのは、二度目。
前回は、岡山に宿泊で旅程の途中での立ち寄りだったため、
島には半日強しか滞在できませんでしたが、
今回は一泊での旅程とあって
少しゆったり気分。

直島は、ベネッセ(私の世代的には、福武書店、という旧名の方が
ピンとくるかも…)が運営する
「ベネッセ・アートサイト直島」がある島。
東西2キロ、南北5キロという
こじんまりとした島です。

この島は、島中東部から南部にかけて、
ベネッセが係わったアートプロジェクト関連施設が
点在しています。
でも、島の中心街的な位置になる島中部では
さほど大規模な開発がなされているわけではなく、
アートプロジェクトも、
直島従来の街並みを活かす形で実施されているので
のんびりとした、落ち着きのある雰囲気です。

一方、島の南部には
コンクリート打ち放しでリゾートホテル的な
「ベネッセハウス」と、
最近出来た「地中美術館」とがあり、
リゾート島っぽさを漂わせてます。


で、今回はこのベネッセハウスに宿泊できることになりました。
本当は、パオ(ゲル)に泊まれるシーサイドパークも
魅力的だったのですが、
そちらはまたの機会に、ってことで。
たまにはちょっとリゾートっぽい雰囲気に浸っても、
きっとバチはあたらないでしょう…。


で、ベネッセハウスも地中美術館も、
安藤忠雄が設計を手がけています。
ベネッセハウスの方は、屋内の階段や
屋外のコンクリート壁の使い方が
ちょっと独特だな、と感じるくらいで
さほど”濃い”建物ではないのですが、
地中美術館の方はなかなか気合い入ってます。
島の景観を損なわないように、といことのようですが
海岸沿いの山斜面に埋め込むような形で
美術館が建てられており、
ベネッセハウスから眺めると
カフェのあるテラス部分がちょっと見える程度。
あとはほとんど地中、です。


しかし!
地中美術館にはいると、
そこが土の中に掘り込まれた空間だと言うことを
つい忘れてしまいます。
中庭が効果的に用いられていて、
あまり閉塞感がないんですね。
この辺り、ミゴトです。
…とはいえ、ちょっとオオゲサな感じも、正直言ってあります。
通路の両側にそそり立つコンクリート壁が
少し斜めに傾けられていたりして…。
それに、安藤忠雄の作品って、「住吉の長屋」のような
コンパクトサイズなものがすごく好きなせいもあって、
どうもこういう大規模なものって、
どこか「監獄っぽさ」を感じてしまうんですよね。
中庭から見る四角に切り取られた空も、
なんだか「手の届かないもの」を見ているようで……。


この地中美術館には
モネの「睡蓮」を飾った部屋と、ジェームズ・タレルの作品の部屋と、
ウォルター・デ・マリアの作品の部屋とがあります。
それらは全て、常設展示です。
ってことは、逆に、その3人のためにそれぞれ展示室があるだけ、という
とてもゼイタクな造り。
デ・マリアの作品「タイム/タイムレス/ノー・タイム」は、
正直言ってちょっとオオゲサすぎるかな、
というのが感想ですね。
大きな、階段状になった部屋の
階段中腹あたりに
これまた大きな(直径2〜3メートル?)花崗岩の球体が
鎮座している、という
非常にシンボリックな、宗教性さえ色濃く感じさせるものです。
その周囲の壁際や壁面上のあちこちに規則正しく配された
金箔に彩られたマホガニー材の角柱も、
なんだか「位牌」のように見えてしまったのは
私だけでしょうか…。


でも、モネの部屋とタレルの部屋は素晴らしかったですよ!!
モネの部屋では、正面に大きな「睡蓮の池」の
幅6メートルほどの大作があり、
天井際からそそぐ自然光のみを照明とした空間になってます。
それで、足元はというと、(多分)大理石などを2センチ角の
キューブ状にしたものを敷き詰めた床。
茶色がかったものや灰色がかったものなど、
いずれもやわらかく角が取られていて、
すごくいい雰囲気でした。


タレルの方は、屋内設置の「オープン・フィールド」と
半屋外の「オープン・スカイ」が
常設展示だけあって非常に完成度の高いものでした。
彼は「光」に注目したアーティストで、
蛍光灯やネオン管などを素材にしながら、
幻想的な、やわらかな光に満ちた空間を作り出す作品を
多く発表していて、すごく好きなアーティストです。
ほの青い朝もやが満ちているかのような空間、「オープン・フィールド」。
(モノは何もなくて、ただそこに満ちる光と空気だけが
 彼の提示する作品なんです)
そして、天井が真四角に切り取られていて、
そこからただ空を見上げる、という作品「オープン・スカイ」。


今回は、「オープン・スカイ」を
日没からの約1時間眺める、という
ナイトプログラムにも参加したのですが、
次第に色が変わっていく空と
その変化に連れて様々に色を変える
壁面を照らす照明との共鳴が
なんとも印象的で…。
(でも、実はあまりに心地よかったせいか、
 けっこう寝てしまっていましたが…(笑))


いつだって、どこだって、
空は本当に魅力的だなぁ、と思います。
それがたとえネオンに曇る東京の空であっても、
瀬戸内海に浮かぶ島の空でも。


それは、きっと
空を見上げようと思っている時点で、
「空を見上げる」という心の余裕がどこかにあって、
空を少し優しい気持ちで眺められるからなのかもしれません。


できれば、常に空を優しい眼差しで
眺められますように…。