岩の上で佇む女性の姿にチベットの深さをかいま見た気がした

【6日目】ラサ(チベット


8月13日。
この日はラサで一日フリーということで、
頑張って早起きしました。
朝6時30分。

チベットの6時半というと、
まだまだ日が昇る前です。
そこをイソイソとお出かけ。
日が出ていないこともあり、
夜空の星がすごくキレイ!!
実はラサ入りしてから、何度も夜空を見上げていたのですが
意外に星が見えない。
ちょっとガッカリ、だったのですが、
実は都市化されてしまったために
ラサの中心地では、夜空が明るくなりすぎてしまってたんですね。


この早出のターゲットは、
そう、夜明けのポタラ宮を見る、ということ。
で、ポタラ宮に向かって左側、
道路を挟んだ小高い丘にある
ビューポイントへ。
そしてしばらく待っていると、
東の山並みの間から陽の光が見え始めました。
少しずつ増え始めた車や人力車の往来が、
シルエットになって。
ちょっと黄色みを帯びた陽の光のせいもあって、
朝のような夕暮れのような、不思議な光景を
浮かび上がらせています。
正直言って、夜明けのポタラ宮、よりも
「夜明けのラサを行き交う人々と、それを見守るポタラ宮
という情景の方が印象的でした。


そして次は、まずは本場チベットで「声明」を聴くことに。
ホテルから歩いて5〜10分ほどのところにある
密教の寺院「ギュメ・タツァン(下密院)」へ。
声明、っていうとあれです、
腹の底から響くような、低音での唸り声で
念仏を唱えるものです。
モンゴルにはホーミーと呼ばれる歌があり、
倍音唱法」といわれています。
チベット声明は、それと似ていて、
低い声と共に、共鳴によって高音が一緒に響いて出てくるんですね。


で、ギュメ・タツァンに向かったのですが、
なかなか見つからない。
大通り沿いにあるはずなのに…と、
近くにいた人に聴くと、彼が指さす先にはただの商店の並びが。
えっ、と思いながら再びそちらの方に行ってみると、
ありました、「下密院/ギュメ・タツァン」の金看板が。
なんと、3〜4階建てアパートの1階部分、
左右を商店に挟まれるようにして
その入り口の門があるのです。
そりゃ気付かないだろ…。


中に入ると、もうどうやら
集団での声明は終わってしまった様子。
残念…、と思いながら堂内を歩いていると、
おおっ、どこからか特徴的な唸り声が聞こえる!
よかった〜、一人だけ残っていた(?)僧が、
奥の間で声明を唱えていたんです!!!!
その、こちらの体の中までしみ入ってくるような
声明を聴きながら眺める仏像たちは
心なしかこちらに向けて微笑みを見せているような
気がしました。


そして、次なるターゲットは
初日にも訪れたデプン寺。
で、ギュメ・タツァンのそばから
バスに乗ることに。
外国のバスに乗る、っていうのは
けっこう旅行の楽しみの一つですよね。
持っていったガイド本がちょっと古かったために
バスの路線番号が変わっていたのか、
どうも目指すバス路線がわからなくて
「しかたないから歩いていくか…?」と
思っていたところだったのですが、
通りかかったバスの入り口近くに陣取った少年が、
「デプン!デプン!デプンx@q^x\{:〜!!」と
叫んでます。
おおっ、これだ!と思い、「デプン?」と聞いて乗り込みました。

そしてデプン寺に通じる山道の出発点に着くと、
バスを降り、近くにいた参詣者に指さされるままに
デプン寺行きの三輪自動車の幌付き荷台に乗り込みます。
で、寺の入り口に着くと、奥へ奥へと進んでいきました。
あっ、例の至上の微笑みを浮かべた弥勒菩薩
(cf:8月11日)
参詣するのは忘れませんでしたよ。


斜面になった寺の敷地を、奥へ奥へと進んでいくと
崩れ落ちた建物が次第に目に付くようになってきます。
その中にあった、地味めのお堂がすごく印象的でした。
そっけないような入り口と前室、明かり採りの高窓から
射し込む光。
豪華絢爛な装飾が比較的印象に残るチベットの寺院ですが、
このお堂の素朴な佇まいは、本当にじわっと
心にしみるものでした。


そこから更に奥へ奥へ。
山の谷間を登っていくと、周囲にはタルチョと呼ばれる
経文を書いた五色の布がはためくようになってきます。
それでも更に奥へ、奥へ。
山肌が脆いために、次第に足場があやしくなってきます。
それでもなんとか3800メートルに到達!
2メートル四方ほどの少し大きめの岩に腰掛け、
デプン寺の全容、そしてその向こうに見えるラサの町を
見下ろします。
うーん、気持ちいい!!


山から下りる帰り道で、ふと見かけたのが
私が先ほど休んでいたような岩の上で
休んでいたチベットの女性。
比較的高齢で、老婆というほどではないにしても
その表情には、チベットの強い日差しによって
刻まれた年輪がしっかりと感じられました。
たった一人だけで、岩の上で休みながら町を眺めていた
この女性の後ろ姿に、なんだか深いところの
触れてはいけないものを見たような気がして…。
「ダシデレ」と互いに笑顔で挨拶こそ交わしましたが、
この旅の中で最も印象に残ったのが
彼女の、人生の深みを体験した上で
心の奥にしまっているように見える表情でした。


(*この日記は、帰国後に旅程を振り返って書いたものです)