56億年後の世界に幸あれ

真剣な問答の風景。


【4日目】ラサ(チベット


8月11日。
ラサでの二日目が始まる。
午前中、最初に訪れたのがデプン寺。
ラサ市内の高度が3550メートル程なのに対して、
デプン寺はその入り口自体が
少し高いところにあり、
さらにまた寺の敷地内は階段や坂が多い。
この日、腕時計の高度計は、
これまで最高の3720メートルを指していました。


寺の敷地内には多くの建物があり、
それらの間を行ったり来たりするだけで
もう、息はあがってきます。
しかし、そうしてたどり着いた小さな堂で
なんとも素晴らしい微笑みを浮かべた大きな仏像が。
(名前を定かに覚えていないのですが、たしか弥勒菩薩?)
なぜか全身像ではなく、胸から上の部分くらいしか
見えていなかったのがちょっと不思議ですが。
そのやさしそうな眼と、全てを受け止めていますよ、というような
口元の微笑みとが非常に印象的でした。
本当に、見るだけで解脱に少し近づいたような…。
弥勒菩薩は、56億年後に地上にやってきて
人々を救うと信じられているとか。
もしあの仏像が私の記憶通り弥勒仏だったとしたら、
今の世の中を考えると、
その降臨が少しでも早まることを願わずにはいられません。


そしてこの日、次に訪れたのがセラ寺。
河口慧海もここで修行した、という寺です。
堂内のことはあまり覚えていないのですが、
たしか子供の健康を祈るためにやってきたチベットの人たちが多く、
またその連れている子供の鼻が(健康祈願のためらしく)
黒く塗られていたのを記憶しています。


このセラ寺の名物は、中庭のような場所で
行われる問答修行。
百名近くいるのでは、という多くの若い仏僧たちが
えんじ色の僧衣に身を包み、
「さぁ、どうだ!いざ!いざ!」(といっていたかどうか判りませんが)
といった勢いで詰問と返答とを繰り返しています。


だいたい立っている僧と座している僧との二人組で
修行が行われているようで、
立っている僧が両手の平をバチーン!と打ち合わせ、対面して座している僧に
なにやら詰問。座している方はあれこれ悩みながら、また時に
逆に挑みかかるように答えていく。
そのやりとりは、大きなアクションと共に印象に残りました。


続いて、ダライ・ラマ離宮だったというノルブリンカを訪問。
花々や緑に囲まれた、広大な敷地の中にその離宮は建っています。
今、この離宮の主はチベットにはいない…。
彼がこの地で再びゆっくり離宮での時を楽しむことの出来る日は
やってくるのでしょうか……。


(*この日記は、帰国後に旅程を振り返って書いたものです)