#0004 田中泯「赤光」

田中泯独舞「赤光」


新国立劇場に、田中泯http://www.min-tanaka.com/)の
独舞を見に行ってきました。


実は、これが私にとって初・田中泯
なぜか勝手に舞踏系の人だと思ってたんですが、
見てみたら違ってました。
舞踊から始まってる人だったんですね。
山梨の白州で「身体気象農場」とか主宰していたので、
勝手に土俗的イメージで「舞踏」なのかと思ってました。



それにしても、すごい存在感、です。
佇まいが本当にカッコいい。
最初、舞台奥の闇の中から登場したときは
鬼神が降りてきたかと思いましたよ、ほんと。


で、動きの方はというと、
舞踏のピクピク系でもなく、
モダン〜コンテンポラリー系のグルーヴでもなく、
「中間」という印象。
私自身は基本的にグルーヴのある動きが好きなので、
これまで今回の田中泯のような動きを見たときには
「なんだか体動いてないなぁ」なんて
思ってたんですが。
でも、今回、開眼しました。
体がしっかりと練れている人がやれば、
あの「中間」の動きもカッコいいんだ、と。


変な言い方をしちゃうと、
「よっぱらっているオッチャン」みたい、とも言えます。
でも、日常生活の中から出てきた動き、って感じの
強度があるんですよ。
(別に日常のジェスチャー
振りとしてやってるわけではないんですが。)
そして、それが単に日常性に終わらない
「触れられない異界」の空気があって。


この舞台、斎藤茂吉の第一歌集「赤光」から
松岡正剛が選んだ八首がテーマになっています。
「うつそみの この世のくにに 春さりて
  山焼くるかも 天の足夜(たりよ)を」から
「入りつ日の 赤き光のみなぎらふ
  花野はとほく 恍(ほ)け溶くるなり」まで。
空蝉から恍惚へ、焼山から花野へ。


その八首を松岡が書にしたためたものが
舞台上をたなびき、
その舞台上は、
四角く仕切られた空間に敷き詰められた
雨の降りそそぐ黒玉石、
そして白檜の舞台、最後に赤土の斜面へ、と三転。


衣装も、その舞台の変化にあわせて
白い麻の上下から
紅花色の明紬(絹)の上に黒の本振袖、
藍染めの端切れを縫い合わせた大振りの野良着、と
変わっていき。


そして、この舞台には二人の能楽師が共演しているんですが、
その大倉正之助(大鼓)と一噌幸弘(能管、まぁ笛です)が
またスゴい。
かなり「和」の彩りの強い二人なので、
(衣装も能楽師らしく裃でしたし)
田中泯の舞踊との組み合わせは
「ちょっとはまりすぎ、やりすぎ…」という
気がしないでもないのですが。



大倉正之助、客席後方から茂吉の歌を
呻りながら登場するんですが、
その倍音成分を活かした呻りにちょっと
テンション上がりました。

一噌幸弘も、能管はもちろん、
角笛?やらリコーダーやら登場させて、
時には二本を口にくわえて一人重奏状態。


正之助の「ヨォオッ!ヨォオッ!!!」と昂揚していく声、
そして一噌の吹き荒れる笛の奏鳴とともに
空気がますます張り詰めていく舞台。


なかなかスゴいものを見てしまいました。


田中泯、改めてその存在感に圧倒されました。
彼が出演している「たそがれ清兵衛」、未見なのですが
DVDで見てみようかな。
たそがれ清兵衛 [DVD]
(そういえば「たそがれ…」の監督、山田洋次
 この日の客席に姿を見せていました)