lucky strike 1942- このおじさん、誰ですか?

謎のオジサン…?


ぼーっとタバコを吸っていたら、
タバコのパッケージ上端に描かれている人物に
ふと目が留まりました。
そのタバコは、ラッキーストライクの1942年復刻版。
いつもは1mgとか軽いのを吸っていることが多いのですが、
たまに違うのを吸いたくなるときがあるんです。
戦場の兵士達が、いざ突撃、という直前にタバコを一服して、
短くなったタバコをパッ、と投げ捨てて
塹壕から突撃していく、という
シーンを映画で見た気がしますが、
きっとキツイのを吸いたくなるときは、
気分が「突撃!」になっているのかも(笑)。


で、話はパッケージ上部の人物に戻って。
その肖像画の下に小さく書かれた文字を見てみると、
「Dewitt Clinton」とあります。
…だれですか、この人?


実は、先にネタバラシをしてしまうと、
案外たいした情報ではありませんでした。
最初は、「おおっ、これは何か
ラッキーストライクに関係の深い謎の人物か?」と
思ったのですが…。
なので、ここから先は
あまり期待せずに(笑)読み進んでみてください。


この人物は、ニューヨーク市長や州知事を務めたことのある
デウィット・クリントン氏。
では、このラッキーストライク1942の発売当時の
州知事、あるいはN.Y.市長だったのか?
…答は、No、です。
ニューヨーク州知事を務めたのは1817〜1823年、
N.Y.市長の任期は1803〜1815年ですから、
どう見ても年代的には重なりませんよね。


それならなぜ?
ここで「あぁ、そうだった!」と気付いたのです。
あのパッケージ上部のシール、
他にどこかで似たものを見たことありませんか?
そう、輸入物のトランプの箱に
よくああいうシールが貼ってありましたよね。
そうなんです、いわゆる印紙、だったのです。
タバコ税、ってやつですね。
この辺り、下のサイトを見たら、
ズバリ「デウィット・クリントンは誰だ?」という
小見出しを付けた記事がありました。


cf:"Cycleback's Pack Secrets"/Pack Dates
http://cycleback.com/packdate.html



なので、この時期、
ラッキーストライクに限らず、
マルボロなど他のタバコにも、もちろん
このデウィット・クリントンおじさんの肖像が
付いていたんですね〜。
こんな画像がありました。
クリントンおじさんの肖像、見えるでしょうか。


マルボロwithデウィット・クリントン


復刻版では、さすがに印紙のデザインそのままではまずいと
思ったのか、少しだけ文字部分がアレンジされているようです。
(復刻版には「20 class A cigarettes/ FILTERS」とありますが、
上記のマルボロの画像を見ると、
オリジナル印紙では「U.S. I.R./CIGARETTES/CLASS A/TWENTY」と
なってます。U.S.I.Rというのが何なのか不明ですが、
おそらく政府関係の公的機関?*1
1932年から1959年まで、
このデウィット・クリントン印紙は
使われていたとのこと。
なんだ、ラッキーストライクの”影”の権力者じゃなかったんだ、
ガッカリ…、です(笑)。




で、肩すかしだったので
補足に王道のネタを。


ラッキーストライクの緑は戦場に行った」ってコピー、
聞いたことありませんか。
グリーン地に赤丸、という1916年版パッケージが
クリーム地に赤丸、という1942年版パッケージに
変わった時に使われたというこのコピー。
緑地の印刷に使われていたインクに金属が
含まれていて、そのインクの分の金属を
戦場に軍需品として送りだそう、という
理由からだった、というものです。


で、調べてみたところ、どうやら
パッケージにしていた緑色インクが
単に物資として欠乏し、
従来パッケージで製造を続けられなくなったから、
というのが本当のところのようです。
更に言えば、グリーンを無くす前に、
赤丸の縁取りに使われていた金色のインクも
供給不能になり、黄色に置き換えるプランも
出ていたとか。
この赤丸+緑地+黄色縁取りバージョンは、
その後すぐに「緑色も足りません!」ってことで
お蔵入りになったようですが。


下のサイトでは、当時の「Lucky strike green has gone to war!」
というラジオ放送のフレーズが聴けます。
(RAマークをクリックすると
 RealAudioファイルが開きます)
アメリカが第二次大戦で北アフリカへ攻め込んだ時と
ほぼ同時のキャンペーンで、
愛国的なコピーが番組放送中も頻繁に繰り返されたために
リスナーからの批判も多かったものの、
売り上げは38パーセントも伸びたとか。


"OLD-TIME RADIO"/cigarette pack color serves in war
http://www.old-time.com/commercials/luckystrike_green.html


ラッキーストライク、という商品名自体は、
どうやら1871年からあったようで、
1848年に始まったゴールドラッシュ時代の
「金鉱みっけ!」的な喜びのフレーズから
来ている、と言われています。
(ただ、1871年当時はパイプ用の葉だったようですが。)
で、1916年にその名前を紙巻きタバコとして復刻させた、と。
その古いパイプ用の頃のパッケージ画像を見つけました。
当時は、R.A. Patterson Tobacco Co.社製です。

缶入りラッキーストライク パイプ用


今回の文章は、下記のサイトを主に参考にしました。
このサイト、すごいです。
世の中にはマニアっているんですね〜、
初めて「Lucky strike green has gone to the war!」が
刷り込まれた印刷物の画像を見ました!


"Jim's Burnt Offerings"/luckies go to war
http://www.wclynx.com/burntofferings/adsluckystrikegreen.html


そういえば、ラッキーストライクにまつわるウワサとしては
「広島・長崎に原爆投下した記念に発売になったタバコ…」とか、
すごいのになると
「広島や長崎ではラッキーストライクは売っていない」という
のもありましたが、いわゆる「都市伝説」ってやつですね。


それと、ラッキーストライクのパッケージデザインは
レイモンド・ローウィだとする説明も
けっこう見かけて、実は私もそれを信じていたのですが、
実は彼がラッキーストライクに施したのは、
デザイン変更のみとのこと。
なんてったって、緑地に赤丸は
少なくとも1916年以前からあったわけですから…。
彼による1916年版から1942年版への変更点は、


・背景色を緑から白に変更
・円形のモチーフを以前より強調
・パッケージ片面のみだった円形モチーフを両面に
・文字をシャープなものに変更


といった変更だったようです。


cf:レイモンド・ローウィファウンデーション
http://www.raymondloewyfoundation.com/jp/



この、背景色が緑から白になった経緯については、
上記のサイトによると
当時ラッキーストライク発売元の社長が
「(当時売れっ子だったデザイナーの)ローウィが
ラッキーストライクのパッケージが嫌いで、
自分ならもっと良いデザインができると思っている」という
ウワサを耳にして、デザインコンペをしたところ、
ローウィのデザインが最も気に入ったから、となっています。


うーん、こうなってくると
真相は闇の中、ですね…。
ただ、パッケージに使うインクなんて
それほど大量だったとも思えないので、
その分の金属をセーブしたところで
さほど戦争物資の役には立ちそうもない気がしますが。
まぁ、緑や金のインクの値段が上がった、とかはありえそうですね。
結局、インクが使いにくくなり、
デザイン的にもちょうど変更したくなっていた、
というあたりに落ち着くのでしょうか。


ちなみにこのローウィという人は、
ピース(タバコ)のパッケージデザインや、
ナビスコのオレオのパッケージデザイン、
シェル石油の貝がら印のリデザイン、
お菓子の不二家(Fのレタリング文字に花が咲いているもの)の
ロゴマークデザインなどを担当した人物。
ナビスコのシンボルマーク(例のミツカン酢のようなマーク)を
赤い三角コーナー印にしたのもこの人のようで、
けっこうそうしたリデザイン関係の仕事も多いんですね〜。


あぁ、長々と役に立たない話を書いてしまった…。
(まぁいつだって役に立つことは書いていないんですが(笑)。)
役に立たない、と書いておきながら、
実はこうした、どうでもいい情報を調べるのって
嫌いじゃないんですけど、ね(笑)。
情報の”ハンター”になった気分?

*1:これ、後でUnited States Internal Revenueの略だと言うことが判りました。アメリカ内国税収入、です。あるいは内国税歳入庁=IRSを指しているのかもしれませんが、なにしろ内国税に関するものである、ということのようですね